ナマオの四足研究所

~日本四足競技連盟代表のブログ~

ヒト型襲歩――人間に生まれつき備わった四足走法?

 

最近はイベントの告知やら二足の話やらで、四足記事の方をさぼっていましたね。

四足のことを書くと、どうも専門的な話になってしまうので、書き方に悩んでしまうんですよね。毎度毎度、基本的なことから話すのも違うと思いますし、過去の記事を読んでいる前提で書いた方がいいのかな……ある程度の補足は必要でしょうが

 

さて、今日は天性の四足ランナーたちが採用している「ヒト型襲歩(私が勝手に名付けました)」についてお話しします。

 

ヒト型の四足走行

人間には生まれつき四足走行の能力が備わっていると聞いたら、どう思いますか?

四足走行がテレビで取り上げられた時は、素人が四足歩行を実践して、「かなりキツイ」といった感想をよく口にします。これを見たら、四足走行はよほどの筋力がないとできない競技だ――とか思われるかもしれません。

でも、そうじゃないんですよね。

苦手な人は四足の体の使い方を知らないだけです。多分、ハイハイの卒業が早かった人ほどキツイ運動になるかもしれません。

世の中には子供の頃から四足で走っていた人たちが少なからずいます(私もです)が、彼らにとって四足走行は悲鳴を上げるほどのキツイ運動ではないんです。さすがに二足で走るよりは疲れますが……

その天性の四足ランナーたちは、特別筋力が優れているわけではありません。女性も普通にいますし、私なんかは鳥足のように腕が細いです。

 

彼らは他の人と比較にならないくらい“速く”“自然に”走るので、一目で分かります。

四足走行の世界大会が過去に二回開催されましたが、その中だけでも、天性の四足ランナーが四人はいました。

その特徴は、

①足が肩より外に出ない交叉襲歩

②歩幅が狭い代わりに回転数が多い

③両足が接地している瞬間がない

 

ざっとこんなところです。

①について、四足哺乳類はギャロップ(日本語で襲歩)と呼ばれる走り方をするのですが、これは人間の四足走行にも当てはまります。

ギャロップ走行は基本的に二種類あって、そのうちでヒトが採用しているのは馬や猿に見られる「交叉襲歩」です。一応、それについて書いた記事を貼っておきますね。

quadrupedal-namao.hatenablog.jp

 

ギャロップ体幹部を大きく使った運動なので、背中を屈曲させた時に、そのままでは手と足が接触してしまいます。そのため、多くの動物では後ろ足を肩より外側に出すのですが……

例の天性の四足ランナーたちは、全員が足を内側に入れます。

これは多分、ヒトの肩幅が動物のそれより遙かに広いからだと思います。両足を外に出すとなると、かなり足を広げなければなりません。

ヒト以外のほとんどの四足哺乳類には鎖骨がないので、肩甲骨がぺったりと脇にくっつきます。人間は背中に固定されていますね。

ちなみに、ニホンザルの四足走行も、ヒトと同じように足を肩より内側に収めています。猿には鎖骨がありますから。

 

しかし、この足を内側に入れるという走り方。安定はしますが、歩幅はいまいちなんです。

ニホンザルの場合は足が短いので問題ないのですが、ヒトがこの走り方だと窮屈なんですよね。足を十分に前に運べないのが難点です。

その代わり回転数は多くなります。足をわざわざ外に出すよりは、まっすぐ前に運んだ方が早いということでしょう。

これが、②の特徴です。

 

③は、人間特有の足の動きです。なのでヒト型襲歩と名付けてみました。

ギャロップは極端な話、カエル跳びの連続です。着地・離地の順番は左右で違いますが、必ず両足が着いた後で跳躍します。

【通常のギャロップ】左右後肢着地→跳躍→左右前肢着地→跳躍……

ヒト型襲歩の場合は、個人差はあるものの、後肢の動きが二足走行に近い状態になっています。つまりどういうことかと言うと、両足が地面についている瞬間がないのです。

【二足走行】左足着地→跳躍→右足着地→跳躍……

これと同様の足運びがヒト型襲歩でも見られ、

【ヒト型襲歩】左足着地→跳躍→右足着地→跳躍→左右の手が着地→跳躍……

こうなります。通常のギャロップとの違いが分かりますでしょうか?

(厳密には、交叉襲歩は後肢が離地する前に前肢が着くのですが、ここでは触れません)

 

走行というのは、体を宙に浮かせることで、足の長さ以上の歩幅を得ることができます。ヒト型襲歩は回転数重視の走法ですが、左右の足が着地する間に滞空時間を設けることで、欠点となっている歩幅を補っていると考えられます。

 

まとめ

ここまで、天性の四足ランナーを持ち上げてきましたが……実は、彼らが四足走行の頂点に立ったことは一度もないのです。

現世界王者の“いとうけんいち”は、大人になってから四足走行を始めましたが、十年を超える練習で生み出した記録は、天性の才能をもってしても簡単には破れないものとなっていました。

最初のギネス世界記録――100m20秒の記録を知った時は、失礼ながら「5年猛練習してその程度か」って思っていましたが、今の15秒台はすごいと認めざるを得ません。

その15秒台を最初に出したのも、高校から四足走行を始めたという玉腰活未選手でした。彼は通常のギャロップ走行とヒト型襲歩の利点を両方備えた、画期的な走法を身に付け、16秒の壁を破りました。

その後、記録を奪還したいとう選手も、彼の走法を参考にしたと思われます。

 

次回は、その「現在最速の走法」とやらを、私なりに解説してみようと思います。

 

 ↓ 四足走行の計測イベントです。現在参加者9名。

quadrupedal-namao.hatenablog.jp